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よくある相続の落とし穴②~相続税の申告期限が迫る!~

 

(相談者A 弁護士S)

A:先生、昨年母が亡くなったのですが、先週母と同居していた兄から突然手紙が来たので見て欲しいのです。兄からは何度も電話がかかってきて、なんでも相続税を支払う必要があるとかで、早く遺産分割をしないと大変なことになるそうなのです。

 

S:たしかAさんのお母様は、お父様が亡くなられてからずっとお兄さんと同居されていたのですね。では、お手紙を拝見しますね・・・・。

 

A:兄は、「相続税の申告期限が迫っている。そこで、急いで遺産分割協議書を作って相続税を支払いたい。」と手紙で書いてきました。

 また、兄は「税理士に相談したら、相続税申告には遺産分割協議書が必要だといわれた。遺産分割協議書は、一旦私が全て相続する内容にしてあるが、それはお前が遠方に住んでいるので、申告手続を私1人で簡単に済ませるためだ。とにかく延滞税を避けるために相続税を支払って、その後で分割をやり直せば良いから心配ないし、税理士もそういっている。とにかく時間がないから早く遺産分割協議書にサインして実印と印鑑証明をつけて送るように。」と電話で説明してきました。

 そうしないと、どえらい延滞税がかかってきて大変なことになるそうです。

S:う~ん、Aさんのお兄さんは本当に税理士さんに相談したのでしょうか?Aさんのお兄さんを悪くいうつもりはありませんが、相続の落とし穴が仕掛けられている可能性があります。未分割申告を検討された方が良いでしょうね。

A:ええっ!どういうことでしょうか?!

 

<解説>

 

 良く知られているとおり、相続税の申告期限は、相続開始(被相続人死亡時)から10ヶ月以内です。この相続税の申告期限を過ぎてしまった場合、延滞税がかかります。

 

延滞税の税率は、

①申告期限から2ヶ月以内の場合は、原則7.6%(但し特例基準割合で、実際には平成30年1月1日から令和2年12月31日までの期間は、年2.6%)、

②申告期限から2ヶ月を経過した日以降の場合は、原則として年「14.6%」(但し特例基準割合により平成30年1月1日から令和2年12月31日までの期間は、年8.9%)、というもので、結構高額な延滞税がかかります。

  したがって、申告期限までに相続税を支払っておきたいという点に限っていえば、Aさんのお兄さんの主張はおかしくはないということになります。

 しかし、相続税は、遺産分割協議書がないと申告できないわけではありません。また遺産分割協議ができていなくても、とりあえず分かっている相続財産を記載して法定相続分に応じた相続税を申告することは可能です(未分割申告)。

 ですから、相続税申告のために遺産分割協議書が絶対に必要だという訳ではないこと、未分割申告が可能であることからすると、Aさんのお兄さんのお話には少しおかしな部分があると気付くべきです。

 さらにAさんのお兄さんのお話でおかしいと思われるのは、後で証拠に残る可能性が高い手紙では遺産分割協議書を作ることだけを提案しており、「今回の遺産分割協議書作成は納税のための形だけのものであって、納税後は、ちゃんと分割をし直す。」という、Aさんにとって非常に大事な部分を、敢えて証拠の残りにくい電話で伝えてきている点です。

 Aさんが、仮にお兄さんのお話に乗って、全てをお兄さんに相続してもらう内容の遺産分割協議書を作り、実印を押印し、印鑑登録証明を添付して渡してしまった場合、後でお兄さんから裏切られても、お兄さんの裏切りを証明する証拠がありません(「口約束がありました。」「電話で聞きました。」、と主張しても証明できませんから、裁判では勝てません。)。

 結局、お兄さんに裏切られた場合には、裁判で遺産分割協議書に書かれたとおり、お兄さん1人に全部相続してもらうという合意があったとされる危険性が高いのです。

 

 ではお兄さんが裏切らなかった場合は、問題がなくおさまるのでしょうか。

 この点、お兄さんが全てを相続した上で、その財産をAさんに無償で分ける行為は、税務署から見れば、遺産分割行為ではありません。

 遺産分割協議書がありお兄さんが1人で相続したとして納税をしているのですから、お兄さんが(相続を完了して)所有している財産を、無償でAさんに与える行為、すなわち贈与行為です。お兄さんが1人で相続して、その後で財産を、全く関係のない第三者に無償で与える行為と同じです。

 Aさんとしては遺産分割のつもりでも、税務署には贈与行為として判断され、贈与税の対象とされると思われます。ちなみに贈与税は贈与を受けた人が支払う税金です。

 したがって仮に約束通りAさんのお兄さんが相続税を申告・納付後に、Aさんがお兄さんから約束通りの遺産を分けてもらっても、当局に補足されれば(既に相続税を納めたにも関わらず)Aさんが重ねて贈与税を食らう可能性が極めて高く、やはり適当な手段とは言い難いということです。

 

 このような行為を、普通の税理士が勧めるとは考えにくいといえましょう。そうだとすると、Aさんのお兄さんが相談したという税理士が実在するのか疑問に思ってもおかしくありません。

 以上の点から、S弁護士はAさんに、お兄さんの提案に乗ってはのちのち問題が生じる可能性が高くなることを見越して、未分割申告の手段を検討するようにアドバイスしたのです。

 

 

大阪弁護士会所属  弁護士 坂野 真一

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