Blog ブログ

Blog

HOME//ブログ//公益通報者保護法改正の解説

ブログ

公益通報者保護法改正の解説

 

 

2020年6月8日の国会で、改正公益通報者保護法が成立しました。2022年6月までに施行されます。

 

近年、内部告発等がきっかけとなって、消費者被害が明らかとなるケースが見られており、社会問題化する企業の不祥事による消費者被害等を防止するためには企業内部からの通報が重要です。

ただ、従業員による公益通報を促進するためには、公益通報をした従業員が報復されないことが重要です。内部通報は、企業にとってもリークされる前に早期是正を機会を得られる有益なものなのですが、「裏切り者」とみられて報復人事を受けてしまうのが怖くて従業員はなかなか声を上げられません。

 

公益通報者保護法は、内部告発等を行った従業員に対し企業が解雇等の不利益取扱いをすることを禁止する法律です。

しかし、制定当初から保護対象が狭いことなどが指摘されており、本改正によって、保護対象を拡大するとともに、一定の企業に内部通報窓口の設置の義務化などが定められました。

2006年の法施行以来、初めての抜本的改正となります。

 

改正法の内容は消費者庁ホームページで確認できますが、以下では主な改正点について説明します(引用する法律は改正後のものです)。

 

◎内部通報窓口設置の義務化

これまでは、内部通報窓口の設置は義務付けられていませんでした。

改正法では、従業員300人超の企業に対し、内部通報に関する窓口の設置や調査、是正措置などが義務付けられるようになります(法11条1項、2項)。

なお、一般企業だけでなく学校法人や医療法人、NPOなども対象です。

従業員300人以下の中小企業については窓口設置などは努力義務にとどまっています(新法11条3項)。

 

◎実効性確保のための行政措置の導入

行政は、企業に内部通報に関する体制整備を促すために、報告を求める、助言や指導、勧告などの措置を講じられるようになります(法15条1項)。また、勧告に従わない場合には企業名の公表もできます(法16条)。

行政から求められた報告をしなかったり、虚偽の報告をした事業者は、20万円以下の過料に処されます(法22条)。

 

◎守秘義務(刑事罰あり)

これまで、内部通報者が誰なのかという情報を秘匿する義務は定められていませんでした。これによって、内部通報をすると、上司にばらされて報復を受けるおそれなどがあると、ためらってしまうこともあったと思われます。2006年には大手自動車会社の通報窓口を担当する弁護士が内部告発者の実名を会社に伝えてしまい、内部告発者は自宅待機を命じられたとの報道もありました。

改正法では、内部通報を受け付ける担当者に、通報者が誰なのか特定にさせる情報について罰則付の守秘義務が課されました(法12条)。これに違反した場合には刑罰(30万円以下の罰金)の対象となります(法30条)。

 

◎保護対象の拡大(人)

 これまで、保護の対象は、現職の従業員だけで、役員や元従業員は対象となりませんでした。

 改正法では、退職後1年以内の元従業員や役員も保護の対象となります(法2条)。

企業が退職者の転職先に不利な情報を流すなどの行為を防ぐことが期待されます。

 

◎保護対象の拡大(通報内容)

 これまで、保護される通報内容は、犯罪行為の事実に限られていましたが、改正法では、刑事罰に加えて行政罰(過料)の対象となる事実も追加されました(法2条3項)。

 なお、通報対象となる刑事罰や行政罰を定める法令は限定されているので注意が必要です(通報対象となる法律一覧参照)。

 

◎通報に伴う損害賠償の免除規定の新設

事業者は公益通報によって損害を受けたことを理由として通報者に対して賠償を請求することはできません(法7条)。

 

◎不正を行政機関に通報できる要件の緩和

 公益通報は、企業内部への通報が基本ですが、一定の場合には行政機関などの外部者への通報も許容されていました。ところが、内部への通報の場合は通報対象事実があると「思料する」だけで良かったのですが、外部への通報には通報対象事実があると「信じるに足りる相当の理由」が要件とされていたため、文書など十分な証拠が求められていました。

 改正法では、行政機関に通報する条件としては、通報者本人の氏名などを記載した書面での提出を認め、行政機関への通報を行いやすくしています(法3条2号)。

 なお、行政機関以外の第三者(例えば報道機関)への通報について、一定の要件緩和はなされましたが、「信ずるに足りる相当の理由」が要求される点は変更されていません(法3条3号)。

 

 

 以上のとおり、本改正によって公益通報の保護が一定程度前進しましたが、まだまだ不十分な点があることは否めません。

 政府は、本改正後3年後を目途に改正法の規定について検討することになっています(附則5条)。施行後も注目が必要です。

 

大阪弁護士会所属  弁護士 永井 誠一郎 

SHARE
シェアする
[addtoany]

ブログ一覧