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刑の一部執行猶予について(その2)

 

 

今回は、薬物事犯を念頭に置いて、刑の一部執行猶予を求めるために必要な立証活動について説明します。

 

刑の一部執行猶予の可否は次の3つのステップで判断されます。

① 施設内処遇のみでは再犯の抑止が困難か

② 再犯防止に有用な社会内処遇が具体的に想定できるか

③ その実効性が期待できるか

 

薬物事犯の再犯率の高さからすると、薬物事犯は類型的に刑務所内での処遇だけでは再犯を防ぐことは困難といえます(①)。

また、薬物事犯に関しては保護観察所における社会内処遇プログラムが確立されており、社会内処遇が想定可能です(②)。なお、薬物事犯以外にも、保護観察所には性犯罪者処遇プログラム、暴力防止プログラム、飲酒運転防止プログラムなどもあり、これらの犯罪についても一部執行猶予の主張が可能です。

 

弁護側では上記③に関して、特に更生意欲や更生環境についての立証をしなければなりません。

刑の一部執行猶予はとりあえず求めたら認められるというものではありません。

 

本人の更生意欲について、「もう二度と薬物に手を出しません」と法廷で語るだけでは大きな意味がありません。

少なくとも、一部執行猶予制度がどのような制度で、一部執行猶予期間中の社会内処遇プログラムでどのようなことを義務付けられるかについて、依頼者本人に十分理解してもらった上で、法廷で語ってもらう必要があります。その上で、釈放後に社会内処遇プログラムを受け続けることによって更生する意欲があること示していただく必要があります。

依頼者ご本人に制度内容を十分学ぶ意欲があることが立証のスタートラインとなるのです。

 

次に、更生環境を整える必要があります。

身寄りもなく、薬物仲間との縁も切れていないような方であれば、釈放後に社会内処遇プログラムを受講するとは信じてもらえないでしょう。

一部執行猶予を得るために、まずは出所後の安定した帰住先や仕事を考えなければなりません。

釈放後の生活を監督してくれる人の存在も重要です。そのような方にも一部執行猶予の制度や覚せい剤依存離脱支援に関する知識・理解が必要となります。

 

なお、反社会的勢力に所属していたり、保釈中に逃走したり、過去の保護観察で指導に従わなかった履歴があるような場合には、裁判所は一部執行猶予を消極的に考える傾向にあります。さらに、前科の数が多く、懲役2年4月を越えると見込まれるようなケースでは、一部執行猶予を得られる可能性は低くなります。

 

 

刑の一部執行猶予は、特に本人の意思だけでは再犯を防ぐことが難しい薬物事犯では有意義な制度だと考えています。

本気で薬物をやめたいという方には、本人の学び、環境調整など可能な限りの支援をしていきたいと思います。

 

大阪弁護士会所属 弁護士 永井 誠一郎

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