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勾留を争う(4)~準抗告で嫌疑の有無も争うことができる

前回説明した勾留決定に対する準抗告は、「罪証隠滅の可能性がない」「逃亡の可能性がない」という争い方を前提とするものでした。

 逮捕事実に身に覚えがなく嫌疑がないはずなのに勾留決定されたという争い方もできます。

準抗告で嫌疑なしを主張することができる


刑事訴訟法では、「犯罪の嫌疑のないことを理由として」準抗告できないという規定があります(刑訴法429条2項、420条3項)。この条文だけ読むと、準抗告で「嫌疑なし」を主張できないと読めそうです。しかし、この規定は、犯罪の嫌疑は公判で争われるべきものだから準抗告で争わせる必要がないという趣旨で定められたものです。起訴前勾留では、そもそも起訴すらされていないのですから、この趣旨は妥当しないと考えられ、堂々と「嫌疑なし」を主張すればよいのです。

また、準抗告を審理する裁判所としては、上記刑訴法の規定にかかわらず、勾留の要件を点検するためにまずは「嫌疑の有無」を確認します。検討の結果、嫌疑がないと裁判所が考えれば、弁護人の申立ての有無にかかわらず「嫌疑なし」を理由に勾留請求を却下できます。つまり、弁護人に嫌疑なしを主張する申立権があろうがなかろうが、結局裁判官は嫌疑の有無を判断することになるのです。しかし、弁護人が何も言わなければ、裁判官が嫌疑の有無の確認を見落としてしまう可能性が高いため、弁護人がしっかりと主張しておかなければなりません。

記載内容には注意が必要


この時点で嫌疑の有無を争うにあたって気を付けなければならない点があります。

 それは、被疑者側の言い分全てを準抗告申立書に書いて良いのか慎重に検討しなければならないという点です。

 弁護人は、捜査機関が有する証拠や捜査資料を閲覧することはできません。関係する証拠は捜査機関が既に押収しており、弁護側の手元には証拠がほとんどない状態で準抗告申立書を作成することになります。証拠がない以上、逮捕された方の言い分をもとに主張するほかありません。 

 しかし、逮捕された方も、過去の出来事を全て覚えているわけではありませんし、大体のことは覚えていても詳細の記憶が不確かだというケースがほとんどです。そのような不確かな情報を、証拠を確認し無いまま主張すると、後で事実と食い違っていることを指摘され、嘘をついていると弾劾されてしまう危険があります。

 それを防ぐためにも、弁護人としては、後で間違いだと指摘されるかもしれない事実を準抗告申立書に断定的に記載することは避けなければなりません。

認められるケースは少ないがやる価値はある


準抗告において「嫌疑なし」が認定されるケースは、実際のところほとんどありません。私自身も過去に調査したことがありますが、数件程度しか見つかりませんでした。

 裁判所としては、判決で認定できるほどの「合理的確信」がなくても、犯罪を疑う「相当な理由」があると考えれば勾留決定できるため、犯罪の嫌疑の有無については、かなり緩く判断されているのが実際のところです。

 しかし、それでも「嫌疑なし」主張をやる価値があると思っています。

 私自身の経験ですが、平成29年に嫌疑なしを理由とした準抗告認容(勾留却下)の決定を得たことがあります。

 その事件は特殊詐欺の未遂事件への関与を疑われたケースでしたが、本人は全く身に覚えがないと主張していました。

 当時の私は、「裁判所が嫌疑なしを認定するはずがない」と考えながらも、あまりに関与の可能性が低い事件だったので「嫌疑なし」を主張しました。

 すると、裁判所は嫌疑なしを理由として勾留請求を却下する判断を下しました。判断理由は、検察官の主張や捜査資料を前提としても「実行の着手がなく犯罪が成立しない」というものでした。捜査資料を閲覧できない私としては全くの想像外の理由でした。勾留請求が却下されたため、依頼者は無事釈放されました(後に不起訴が確定しました)。

 最初に勾留決定を下した簡易裁判所裁判官は、犯罪が成立するかどうかという基本的な確認を怠ったまま、検察官がいうがまま勾留を認めました。

 他方、地方裁判所の3名の裁判官は、犯罪が成立するかどうかという点から検討し直してくれたのです。

ただ、弁護人が何も言わなければ、準抗告を担当する裁判官も嫌疑の有無を再確認しようとはしなかったと思われます。弁護人としては、諦めずに準抗告を申立ててみることだけにも価値があると感じた事案でした。

大阪弁護士会所属  弁護士  永井 誠一郎

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